地盤改良とCO2排出量~環境負荷から考える工法選びの新しい視点~(2026年09月09日)
はじめに
前回のコラムでは、地盤調査の結果をもとに地盤改良の工法がどのように選定されていくのか、その流れについて紹介しました。
今回は少し視点を変えて、「地盤改良工事と環境負荷」というテーマを取り上げます。
住宅の地盤改良というと、建物を安全に支えるための工事というイメージが強く、環境への影響までを意識する機会は多くありません。しかし近年、企業にもSDGs(持続可能な開発目標)への取組が求められるようになり、地盤改良の分野でもCO2排出量の削減や、施工後に地中へ残る材料への配慮が注目されつつあります。
また、地盤改良工事は建物完成後には見えなくなる工事であるため、これまで環境への影響について意識される機会自体が少なかったのではないでしょうか。
今回は、地盤改良工事がどのように環境へ影響するのか、そして工法によってその影響がどのように異なるのかについて下記の項目にそってで解説します。
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1.地盤改良工事とSDGsの関係
SDGsで掲げられる17の目標のうち、地盤改良工事と特に関係が深いのは、「産業と技術革新の基盤をつくろう」「住み続けられるまちづくりを」「つくる責任つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」の4つだといわれています。
いずれも、化学物質や廃棄物の排出削減、環境上の悪影響の軽減、持続可能なまちづくりといった内容を含んでおり、地盤改良工事にも密接に関わる項目です。
地盤改良工事は住宅を支えるための重要な工事ですが、同時に地球環境や土地の価値にも影響を及ぼす工事であることを、まず理解しておく必要があります。特に、上場企業を中心に建設資材のCO2排出量を把握する動きも出てきており、地盤改良工事に使用する材料についても、今後さらに情報開示が求められていく可能性があります。
このような社会的背景を踏まえると、地盤改良の工法選定は、もはや「建物を支えられるかどうか」だけの問題ではなく、企業の社会的責任にも関わるテーマになりつつあるといえるでしょう。
2.工法によって異なるCO2排出量
地盤改良工事で使用される主な材料には、セメント、鋼管、砕石などがあります。これらは製造段階でそれぞれ異なる量のCO2を排出しており、その差は決して小さくないといわれています。
一般に、セメントや鋼管は製造工程で多くのエネルギーを要するため、生産段階で排出されるCO2量が比較的多い材料とされています。一方、砕石は自然の石を砕いて用いる材料であることから、製造にともなうCO2排出量を抑えやすい材料として位置づけられています。
そのため、同じ規模の地盤改良工事であっても、採用する工法によって使用材料の生産段階で発生するCO2排出量には一定の差が生じる可能性があります。もちろん、施工方法や施工規模、地域の条件などによっても差は変動するため、一律に「この工法が最も環境に優しい」と言い切ることはできません。
しかし、工法選定の判断材料の一つとして、環境負荷という視点があることは、これから住宅を建てる方にもぜひ知っておいていただきたいポイントです。地盤条件や建物の規模によって適した地盤改良工法は異なるため、環境面への配慮も含めて総合的に検討することが大切です。
3.地中に残るものと将来のリスク
地盤改良工事のもう一つの特徴は、施工後も多くの場合、材料が地中に残り続けるという点です。
セメント系の地盤改良工法では固めた土が、鋼管杭工法では鋼管そのものが、それぞれ地中に残置されます。これらは将来、建物を建て替える際に新しい基礎や杭の支障となったり、土地を売却する際に「地下埋設物」として撤去費用が発生したりする可能性があります。
実際に、数十年前に施工された杭や地盤改良体の撤去工事は近年増加傾向にあり、その撤去費用は施工時よりも高額になるケースが多いといわれています。地下埋設物の存在によって不動産評価が下落する可能性があることは、過去の事例でも大きく取り上げられました。
一方、砕石を利用した地盤改良工法は、地中に残るものが自然の石であるため、将来的な扱いという点でも比較的検討しやすい材料だとされています。もちろん、撤去が必要かどうかは土地の利用方法や地域の実情によって異なりますので、一概に「砕石なら問題ない」とは言い切れませんが、地盤改良の材料を選ぶ際の一つの判断材料にはなり得るでしょう。
なお、地盤改良工法の中には、シート工法や土のう工法、発泡スチロールなどを用いる置き換え工法のように、表層部分のみに手を加える工法もあります。これらは硬い地盤に杭を到達させる必要がなく、施工の影響範囲を抑えられる一方、地盤条件や基礎の形状によって適用できる範囲に制約がある点にも留意が必要です。
複合地盤改良工法では、原地盤の支持力も評価して設計するため、工法や地盤条件によっては、補強体の長さや本数を抑えられる場合があります。結果として、使用材料の削減によってCO2排出量の低減につながる可能性があります。
4.砕石を利用した地盤改良工法という選択肢
砕石は、線路の敷石や歴史的建造物の基礎にも使われてきた、人類が古くから利用してきた伝統的な材料です。劣化が少なく強度に優れる一方、セメント固化体や鋼管のような「固形の杭」とは異なり、地中に掘った穴へ粒状の砕石を締め固めながら詰め込むことで補強体を築造します。そのため、穴の壁が崩れないよう専用のケーシングを用いるなど、施工方法が品質・強度に大きく影響する点には注意が必要です。
こうした砕石を利用した地盤改良工法は、地盤条件によっては施工深さを浅く、本数を少なくできるケースもあり、条件によっては工期短縮やコスト低減にもつながる可能性があります。
また、砕石を用いた工法の中には、その透水性を生かし、地震時の間隙水圧の上昇を抑える液状化対策工法もあります。ただし、建物を支えるための地盤補強と液状化対策は目的が異なり、それぞれに応じた設計・施工が必要です。
このように、砕石を利用した地盤改良工法は、CO2排出量の抑制という環境面だけでなく、施工やコストの面でもメリットが期待できる工法の一つといえるでしょう。
5.顧客への情報提供と経営リスクの低減
これまでの地盤改良工事では、「価格」と「工法名」だけが説明され、環境への影響や将来の撤去リスクについては詳しく説明されないケースが多かったのではないでしょうか。
しかし、地盤改良工事が土地の資産価値や環境に影響を及ぼす可能性がある以上、住宅を建てる方や土地を所有する方に対して、価格だけでなく「環境への影響」「将来の土地利用への影響」といった情報もあわせて提供することが、今後ますます重要になっていくと考えられます。
こうした情報提供は、施主にとって納得のいく地盤改良工法の選定につながるだけでなく、事業者側にとっても、顧客からの信頼を得ることや、将来的なトラブルを防ぐことにつながります。
今後、地盤改良工事を提案する際には、価格や工法名だけでなく、環境負荷やCO2排出量、将来の撤去リスクといった情報もあわせて提示することが、顧客満足度を高める一つの手段になっていくと考えられます。地盤改良を検討する際に確認しておきたいポイントとしては、使用する材料や工法の特徴、施工後に地中へ何が残るのか、将来撤去が必要になった場合の目安、そして製造段階で排出されるCO2量などが挙げられます。これらは見積書だけでは分からない情報であるため、遠慮せず担当者へ質問してみることをおすすめします。
6.まとめ
今回は、地盤改良工事と環境負荷、そしてSDGsとの関わりについて紹介しました。
地盤改良工事は、住宅を安全に支えるための重要な工事であると同時に、使用する材料によってCO2排出量や将来地中に残るものが大きく異なる工事でもあります。
これまでの地盤改良は「安全であること」「価格が適正であること」が重視されてきましたが、これからは、それに加えて「環境への配慮」「将来の土地利用への影響」といった視点も、地盤改良の工法を選ぶうえで重要な判断材料の一つになっていくと考えられます。
住宅も土地も、長く付き合っていく大切な資産です。地盤改良工事を検討する際には、目先の価格や工法名だけでなく、その地盤改良が将来にどのような影響を及ぼす可能性があるのかまで、ぜひ意識してみてください。
特に、これから住宅を建てる方にとっては、地盤改良の提案を受けた際に「使用する材料は何か」「施工後に地中へ何が残るのか」「環境への配慮はされているか」といった点を確認することが、将来にわたって安心できる住まいづくりの第一歩になります。地盤改良会社や住宅会社に遠慮なく質問し、納得したうえで工法を選ぶことが、長い目で見た資産価値の維持にもつながっていくのではないでしょうか。
次回のコラムでも、引き続き地盤改良に関する知っておきたい情報をお届けします。